3/28/2010

平成維新進行中

先週小泉改革について書いたら、またまた反響をいただきました。

今回も「そうなんだ」、というものと「ちょっと極端すぎるので
はないか」というものそれぞれいただきました。


ただどちらにしても、今まで気づいていなかった内容を知っていた
だいたようでよかったと思っています。


しかし、実は今一番大切なのは過去の小泉改革ではなく、現在進行
形の民主党による平成維新なのです。これは、先週もお伝えしたと
おり、既存の大手マスコミは民主党攻撃ばかりをしているので、そ
んな維新が進行しているのに気がつかない人が多いのですが、この
維新が成功するか失敗するかで、これからの日本の将来がこのまま
沈んでいくか、あるいは、浮上する可能性が出てくるかの大きな分
かれ目にいるので、あなたのこれからそのような目で日々の動きを
見ていってください。


そうしたら、そんな状況をタイミングよく論文にして発表してくれ
た人がいたことを、ネットで発見しました。

その人は、カレル・ヴァン・ウォルフレン。
オランダ・ロッテルダム出身のジャーナリストで、
『日本/権力構造の謎(The Enigma of Japanese Power)』(早川
書房)や
『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社)などの
ベストセラーの著者でもあるので、ご存知の方も多いと思います。

そのウォルフレンが、「日本政治再生を巡る権力闘争の謎」という
論文を中央公論に発表し、Yahooのみんなの政治に19日に掲載され
たのを今週見つけました。

その書き出しを読むだけでも、今の日本の状況がどれだけ重大な状
況なのかがわかります。

***ここから引用***

いま日本はきわめて重要な時期にある。なぜなら、真の民主主義を
この国で実現できるかどうかは、これからの数年にかかっているか
らだ。いや、それ以上の意味がある。もし民主党のリーダーたちが、
理念として掲げる内閣中心政権を成功裏に確立することができるな
らば、それは日本に限らず地球上のあらゆる国々に対し、重要な規
範を示すことになるからである。それは我々の住む惑星の政治の流
れに好ましい影響を与える数少ない事例となろう。

しかしながら、それを実現させるためには、いくつもの険しい関門
を突破しなければなるまい。国際社会の中で、真に独立した国家た
らんとする民主党の理念を打ち砕こうとするのは、国内勢力ばかり
ではない。アメリカ政府もまたしかりである。いま本稿で民主党の
行く手を阻むそうした内実について理解を深めることは、よりよい
社会を求める日本の市民にとっても有益なのではないかと筆者は考
える。
                        ******


ここまで読むだけでも、今の日本の政権交代がどんなに重大なもの
だったのか再認識されるのではないでしょうか?

この論文はかなり長文に渡るので、ここで全てに触れるわけには行
かないのですが、また、ポイントだけかいつまんでご紹介します。

***ここから引用***

【政権交代の歴史的意味】

民主党が行おうとしていることに、一体どのような意義があるのか
は、明治時代に日本の政治機構がどのように形成されたかを知らず
して、理解することはむずかしい。当時、選挙によって選ばれた政
治家の力を骨抜きにするための仕組みが、政治システムの中に意図
的に組み込まれたのである。そして民主党は、山県有朋(一八三八
~一九二二年、政治家・軍人)によって確立された日本の官僚制度
(そして軍隊)という、この国のガバナンスの伝統と決別しようと
しているのである。


【官僚機構の免疫システム】

明治以来、かくも長きにわたって存続してきた日本の政治システム
を変えることは容易ではない。システム内部には自らを守ろうとす
る強力なメカニズムがあるからだ。

(中略)

さて、この日本の非公式な権力システムにとり、いまだかつて遭遇
したことのないほどの手強い脅威こそが、現在の民主党政権なので
ある。実際の権力システムを本来かくあるべしという状態に近づけ
ようとする動きほど恐ろしいことは、彼らにとって他にない。そこ
で検察とメディアは、鳩山由紀夫が首相になるや直ちに手を組み、
彼らの地位を脅かしかねないスキャンダルを叩いたのである。


【超法規的な検察の振る舞い】

日本の検察当局に何か積極的に評価できる一面があるかどうか考え
てみよう。犯罪率が比較的低い日本では、他の国々とは違って刑務
所が犯罪者で溢れるということはない。つまり日本では犯罪に対す
るコントロールがうまく機能しており、また罰することよりも、犯
罪者が反省し更生する方向へと促し続けたことは称賛に値する。ま
た検察官たちが、社会秩序を維持することに純粋な意味で腐心し、
勇敢と称賛したくなるほどの責任感をもって社会や政治の秩序を乱
す者たちを追及していることも疑いのない事実だろう。しかしいま、
彼らは日本の民主主義を脅かそうとしている。民主党の政治家たち
は今後も検察官がその破壊的なエネルギーを向ける標的となり続け
るであろう。


【小沢の価値】

小泉は政治改革を求める国民の気運があったために、ずいぶん得を
したものの、現実にはその方面では実効を生まなかった。彼はただ、
財務省官僚の要請に従い、改革を行ったかのように振る舞ったにす
ぎない。だがその高い支持率に眼がくらんだのか、メディアは、そ
れが単に新自由主義的な流儀にすぎず、国民の求めた政治改革など
ではなかったことを見抜けなかった。
 
 彼が政権を去った後、新しい自民党内閣が次々と誕生しては退陣
を繰り返した。自民党は大きく変化した国内情勢や世界情勢に対処
可能な政策を打ち出すことができなかった。なぜなら、彼らには政
治的な舵取りができなかったからだ。自民党の政治家たちは、単に
さまざまな省庁の官僚たちが行う行政上の決定に頼ってきたにすぎ
ない。ところが官僚たちによる行政上の決定とは、過去において定
められた路線を維持するために、必要な調整を行うためのものであ
る。つまり行政上の決定は、新しい路線を打ち出し、新しい出発、
抜本的な構造改革をなすための政治的な決断、あるいは政治判断と
は完全に区別して考えるべきものなのである。こうしてポスト小泉
時代、新聞各紙が内閣をこき下ろすという役割を楽しむ一方で、毎
年のように首相は代わった。

このような展開が続いたことで、日本ではそれが習慣化してしまっ
たらしい。実際、鳩山政権がもつかどうか、退陣すべきなのではな
いか、という噂が絶えないではないか。たとえば小沢が権力を掌握
している、鳩山が小沢に依存していると論じるものは多い。だがそ
れは当然ではないのか。政治家ひとりの力で成し遂げられるはずが
あろうか。しかし論説執筆者たちは民主党に関して、多くのことを
忘れているように思える。


小沢は今日の国際社会において、もっとも卓越した手腕を持つ政治
家のひとりであることは疑いない。ヨーロッパには彼に比肩し得る
ような政権リーダーは存在しない。政治的手腕において、そして権
力というダイナミクスをよく理解しているという点で、アメリカの
オバマ大統領は小沢には及ばない。


民主党のメンバーたちもまた、メディアがしだいに作り上げる政治
的現実に多少影響されているようだが、決断力の点で、また日本の
非公式な権力システムを熟知しているという点で、小沢ほどの手腕
を持つ政治家は他には存在しないという事実を、小沢のような非凡
なリーダーの辞任を求める前によくよく考えるべきである。
 
 もし非公式な権力システムの流儀に影響されて、民主党の結束が
失われでもすれば、その後の展開が日本にとって望ましいものだと
は到底思えない。第二次世界大戦前に存在していたような二大政党
制は実現しそうにない。自民党は分裂しつつある。小さな政党が将
来、選挙戦で争い合うことだろうが、確固たる民主党という存在が
なければ、さまざまな連立政権があらわれては消えていく、という
あわただしい変化を繰り返すだけのことになる。すると官僚たちの
権力はさらに強化され、恐らくは自民党政権下で存在していたもの
よりもっとたちの悪い行政支配という、よどんだ状況が現出するこ
とになろう。


【踏み絵となった普天間問題】

【何が日本にとって不幸なのか】

【日米関係の重さ】


誰もがアメリカと日本は同盟関係にあると、当然のように口にする。
しかし同盟関係の概念が正しく理解されているかどうかは疑わしい。
同盟関係とは、二国もしくはそれ以上の独立国家が自主的に手を結ぶ
関係である。ところがアメリカとの同盟関係なるものが生じた当時の
日本には、それ以外の選択肢はなかった。第二次世界大戦後の占領期、
アメリカは日本を実質的な保護国(注:他国の主権によって保護を受
ける、国際法上の半主権国)とし、以後、一貫して日本をそのように
扱い続けた。また最近ではアメリカは日本に他国での軍事支援活動に
加わるよう要請している。実質的な保護国であることで、日本が多大
な恩恵を被ったことは事実だ。日本が急速に貿易大国へと成長するこ
とができたのも、アメリカの戦略や外交上の保護下にあったからだ。
 
 しかしこれまで日本が国際社会で果たしてきた主な役割が、アメリ
カの代理人としての行動であった事実は重い意味を持つ。つまり日本
は、基本的な政治決定を行う能力を備えた強力な政府であることを他
国に対して示す必要はなかった、ということだ。これについては、日
本の病的と呼びたくなるほどの対米依存症と、日本には政治的な舵取
りが欠如しているという観点から熟考する必要がある。民主党の主立
った議員も、そしてもちろん小沢もそのことに気づいていると筆者に
は思われる。だからこそ政権を握った後、民主党は当然のごとく、真
なる政治的中枢を打ち立て、従来のアメリカに依存する関係を刷新し
ようとしているのだ。

******************************


いかがでしょうか? 筆者は日本の歴史的背景から、世界情勢までを
踏まえたうえで、現在の「日本政治再生を巡る権力闘争の謎」を解き
明かしています。

昨今の新聞で見る上っ面のスキャンダルではなく日本人としてどうす
ればいいのかを考えるに当たって非常に示唆にとんだ内容ですので、
ぜひ、お時間を取って全文をお読みいただくことをお勧めいたします。


日本政治再生を巡る権力闘争の謎(その1)カレル・ヴァン・ウォルフレン
2010年3月19日 中央公論


日本政治再生を巡る権力闘争の謎(その2)


日本政治再生を巡る権力闘争の謎(その3)